
↑象徴的な赤い扉

↑この山全部が会社の敷地

↑カルメロ・ディ・ブラッシ

↑溶接工程

↑部品の組み付け工程

↑出荷を待つ商品

↑75年モデル

↑75年モデルを畳む

↑創業者とその奥様

↑昔のカタログ
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シチリアの5月、太陽がまぶしかった。
ローマからカターニャ空港へと移動し飛行機を降りる。
南イタリアらしい、まばゆい陽射しが僕たちを歓迎してくれた。
出迎えの人々で賑わう空港ロビー。
そのなかにあって、東洋人はほかにいない。
よほどみつけやすかったのか、白髪の紳士がやさしい笑顔で近づいてきた。
彼の名前は、カルメロ・ディ・ブラッシ。
この島で、折りたたみ自転車を製造し、
世界に向けて送り出す『ディ・ブラッシ』という会社の代表である。
カルメロの運転するプジョーに乗り、会社へとむかう。
途中、カターニャの街でローマ時代の史跡や、街に残る旧跡を案内してもらった。
狭い路地、白い壁、古い石の建造物…。
それは、『ニュー・シネマ・パラダイス』など、映画でみたシチリアそのものだった。
その日は、カターニャの外れにあるリゾートホテルに泊った。
夜は、カルメロの招待で、シチリア料理を堪能。
獲れたての魚介類をグリルして、オリーブオイルとレモンをかけて食べる。
日本の磯料理にも通じる、素朴だが暖かい島料理だ。
加えてシチリアで作られたというワインの味は格別だった。
翌朝もよく晴れていた。
ホテルに出迎えてくれたカルメロのクルマで、会社を目指す。
ビッチーニという街の裏にある山。
そこにディ・ブラッシの工場はある。
小さな門をくぐり、クルマで3分ほど走っただろうか。
扉だけが真っ赤なペンキで塗られた、石造りの建物が目に入った。
周囲には、オレンジやオリーブの畑があり、ヒナゲシの花が可憐に咲いていた。
ここにはヘッドオフィスほか、製造、組み立てを行なう工場がある。
年間4000台の折りたたみ自転車と、折りたたみオートバイを作る。
従業員は21名。
それぞれの工程を受け持つ職人さんが誇りを持って手作りしている。
みないい顔だ。
設計はもちろん、鋼材のカット、溶接、塗装、パーツの組み付け、テストまで
すべてが、この工場で行なわれていたのには、正直驚いた。
多くの自転車メーカーが、経費の安いアジアの工場で製造する時代。
ここまでイタリア製、自社工場製、そして、手作りにこだわっている会社は希少だ。
それも、レース用のフレームではなく、折りたたみ自転車なのだから。
ディ・ブラッシの自転車を日本でみたとき、
正直、「古くさい、なんかペンキっぽい色だな」と感じた。
しかし、この色合いこそがシチリア、否、ディブラッシの色なのだ。
太陽に照らされた赤いペンキは、ディ・ブラッシの工場の扉と同じ。
青は澄んだ空、イエローは、彼らの庭に咲く花の色、黒は、エトナ火山の灰の色。
彼らは、この土地のイメージをそのまま自転車に表現し、
世界へむけて送りだしていたのだ。
工場での取材を終えると、カルメロが「自宅へおいで」と誘ってくれた。
クルマで15分ほどのビッチーニの街。
石造りの建物に入ると、ヒヤっと冷たい空気が体に心地よかった。
石でできたこの建造物は、夏でもエアコンが不必要なほど快適で涼しい。
この土地と知恵が育んだ建物は、100年以上もの築年を経ているという。
そしてカルメロは、同居している父であり、
この会社の創業者であるロザリオを紹介してくれた。
彼は、第二次大戦中、ロータリーエンジンを発明。
技術者として、パイロットとして、国に貢献したとか。
戦争が終わり、ローマに暮らしていたロザリオが、
アパートの階段を楽に持ってあがれる自転車が欲しい。
そんな発想のもと、1952年に今の折りたたみ方法と同じ最初の自転車を考案したそうだ。
1972年から市販開始。
その後発売したエンジン付き折りたたみオートバイは、イタリアの警察でも採用された。
そんな昔話を聞きながら、カルメロの奥様が手作りしたパスタをご馳走になった。
シチリアに到着してからというもの、
「ペペロンチーノが食べたい!」と騒いでいた同行カメラマンの井上六郎。
彼のために「世界一美味しいペペロンチーノを食べさせてあげる」と
自家製の麺、自家製のオリーブオイルで作ってくれたのだ。
それは、今までに体験したことのないような深い味わいだった。
シチリアの太陽に育まれた、自家栽培の無農薬オリーブを使ったオイル。
そして、このファミリーの暖かさでお腹がいっぱいになった。
ディ・ブラッシの自転車は、ヨーロッパとオセアニアで人気があるそうだ。
それは、大半がヨットやクルーザーに積んでおき、港での移動手段として使うため。
どこかブリキのおもちゃのような暖かさを秘めた、
メイド・イン・シチリアの折りたたみ自転車。
こんな自転車に乗れば、日本の街でも、ゆったりとした時を楽しめるに違いない。
(2001年5月取材 協力/小学館『ビーパル』、ミズタニ自転車、松山修平)
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